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上高地は自然観察の聖地〜ビクセン新妻社長の観察視点〜

上高地SPECIAL TALK

上高地は自然観察の聖地〜ビクセン新妻社長の観察視点〜のイメージ

連なる山々、野鳥、樹木や草花、コケなどの微細な生きもの、そして星空...全てが揃う上高地の自然。これらを観察することは自然科学を学ぶ第一歩。
その第一歩をお手伝いするのが「自然科学応援企業」ビクセンなのです。

新妻 和重(にいつま かずしげ)さん

株式会社ビクセン代表取締役社長。東京都出身、埼玉県所沢市在住。1966年(午) 生まれ。大好きな山登り山歩きで見つけた草花や昆虫はもちろん、街中でもちょっとし た変化を敏感に感じ取れるほど好奇心が旺盛。スマホに撮り溜めた自然観察写真は 優に30,000点を超える。

上高地には「入る」という特別感がある

山登りを始めたのは40代前半なのでちょっと遅めですかね。妻が富士山に登る計画を立ててましてね...。当初は山にもそれほど興味はなく、富士山に登ろうなんて思ってもいませんでした。でも富士山に登るためには、最初どこどこの山に行こうだとか登山ツアーに参加しようだとか、徐々にひき込まれまして...。実際富士山に登るころには山登りが好きになっていましたから、それからは積極的に計画を立てて妻と一緒にいろんな山に出かけています。
山の何が魅力かといえば、まずは達成感ですよね。それは富士山でも槍でも剱でも、それこそ地元に近い高尾山や奥多摩の山でもいいんですが、山頂に行くとか行かないとかは別として、自分の体力のちょっと先まで行けたという達成感。それが楽しいと思えるので10年以上続けられているのかなって思いますね。

剱岳とか険しい山に登るときは身の安全を考えながら、ちゃんとペースを守って歩きますけれど、普段の山歩きでは何か見つけたらその場ですぐ写真を撮りますね。例えば高尾山なんかにはよく行きますが、草花が多いので写真を撮ったり花の名前が分からないものは後で調べて少しずつ覚えたりとか、それも楽しみの一つです。スマホで撮るんですが大概の花の写真はこの中に入っていますよ。

いつだったか一泊二日の行程で乗鞍岳と焼岳に登ったことがあって、その時西糸屋山荘に泊まったのかな、それが最初の上高地だったと思います。
上高地はいつの季節でも特別感があって、上高地って来る行くじゃなくて「入る」ってイメージがありますよね。そういうスペシャルな感じがするので、ここに来たらまずはゆっくりと楽しみたいなって思います。

発見した! あの感動は今でも忘れない

星と出逢ったのは小学一年生の時ですね。私の父がビクセンの役員だったこともあって、自宅に望遠鏡の試作品がいくつもあったので、それを段ボール箱から出して家の庭に置いてよく覗いていました。子どもながらに重たいので、普通だったら危ないとか壊しちゃいけないとか言われそうなんですけど、壊れたら直せる人がいるんで、割と自由に触ることができました。

当時はそれが何という名前の星かも知らずに、明るい星に筒を向けて、レンズの中に浮かんできたものを見て楽しむという遊びをよくやっていました。
50年ほど前の所沢は結構暗くて星が良く見えましたね。自宅が駅から2kmくらい離れたところにあったんですが、電車の音も聞こえたくらいですからその間に(音を遮る)建物がほとんどなかったってことですよ。高層ビルもありませんでしたから(星を見るのに邪魔な)灯りも少なくて。

そうしたらある時、覗いた星に輪っかがあるじゃないですか!
発見した!って思いましたね、すごいものを見つけたと。今まで小さな点でしか見えてなかったものが、そうじゃない形で浮かび上がってきた。この感動体験は今でも忘れられないですね。急いで友達を呼びに行って、すごいもの見つけたからちょっと来いって言って二人で一緒にその星を見たんですよね。その友達とはそれ以来50年の付き合いです。

サンタクロースとの素敵な関係とは?

毎年クリスマスの夜に、サンタクロースのそりを引くトナカイたち。 クレメント ムーアの詩集によると、彼らにはそれぞれ名前がついていて、その中の1頭を「ビクセン」といいます。 株式会社ビクセンの社名は、その幸せの使者に由来。 「みなさんに幸せや感動を届ける会社になりたい」という想いがこめられています。

ホームページにも載せてありますが、「ビクセン」はサンタクロースのソリをひくトナカイたちの一頭からとった名前です。私がまだ生まれる前の話で伝え聞いたところによると「光友社」という会社だった当時、ブランドを作ろうということで、そのブランド名を社内公募したらしいんですね、会社名ではなくて…。

今でこそ公募は一般的な手法ですけれど、昭和30年頃の当時としてはユニークな試みだったと思いますね。その後昭和45年(1970)にブランド名「ビクセン」が社名となりました。

自然科学を応援し続けます

我々の造っているものは光学機器で、それは自然を観察するための道具なんですけれども、そもそも道具って主体にはならないじゃないですか。道具は何かをする時の ために必要なものであって、その「何か」をちゃんと応援していかないと道具の意味がなくなると思うんですよね。
我々は自然観察するための道具を造っているので、肉眼で見たものとレンズを通して見たものとを比較して、不思議だなと思ったり何故なんだろうと思ったりして調べてみる、そんなふうに繋がっていけばいいですよね。
ただ道具を造って満足するのではなく、自分達の造っているものに意味を持たせるためには、その道具をどういうふうに使ってもらいたいのかをちゃんと伝えていかなければいけない。

そんな想いから「自然科学を応援する会社であること」を我が社のミッションにしてい ます。

今いろんなことが物理的に分かってきているけれども、そもそも宇宙って不思議じゃないですか、どこにあるのかとか果てがあるのかとか...。
星に限らず樹木や草花昆虫などいろんなものを観察して比較して、ワクワクしたり興奮したり、頭を悩ませたりして欲しいですね。

地球も含めて星を感じて欲しい

社の行動指針に掲げている「星を見せる会社」というのは、実は足元の地球も含めて…という意味があって、星空だけじゃなくてこの地球も見せようということなんですね。例えば槍ヶ岳の頂上のような視界を遮るものが全くないところに立って周りを見渡すと、地球だなって感じがするじゃないですか。
夜でも、高いところの山小屋に泊まって星空を眺めたり月明かりに照らされた山々を見たりすると、地球という星に立って星空を見上げている感じがしますよね。
だから「星空」を見せるのではなくて「星」を見せる会社、というのが本当の意味合いなんです。

ここは星の動きがよく分かります

上高地には「入る」というイメージがあると先ほど言いましたが、車も通れないし夜に 限ればそこから出られない。(*補足)
ここから出られないということは、ここで過ごすしかないってことですから、星を見る時間というのは凄く贅沢な時間じゃないかなと思いますね。閉ざされた空間で夜をじっくりと過ごす。時間もゆっくりと流れていきます。

星を見るのにハードルとなっているのは「星を見てもよく分からない」ということ。そのハードルを下げるために星空観察会などで星の解説をしていますが、でもそれは一つの解決方法で、それが全てではないと僕は思っていて...。
よーく見ていると分かってくることがあるので、解説がなくても楽しめる環境を作りたい、というのが本当のところなんですよね。

2時間くらい星空を眺めていると、星が結構動きますよね。上高地でいえば、例えばこの霞沢岳の山の端にあった星がさっきよりも上の方にあるとか、位置が分かりやすいんですよね。
昨日なんかもフォーマルハウトという明るい星が昇ってきたんですが、さっきまであそこにあったのに、いつのまにかこんなところにあるっていうように気づくことで、星が動いているのが子ども達でも良く分かります。

(*補足/上高地は通年マイカー乗入れ規制で、釜トンネルのゲートは夜間閉められているためバス・タクシーも通行できません)

月明かりに浮かぶ陰影のある山がカッコイイ!

今朝は奥穂に朝陽があたってモルゲンロートを見ることができましたが、山肌の凹凸 が出てすごく綺麗でした。
対する月明かりというのは太陽の光を反射している一方方向からの光で、言ってみればレフ板なので、山を映し出すには本当に良い照明なんですよね。
日中の強い光では山がノッペリして見えますが、淡い月明かりに照らされた陰影のある山は格好良く見えますよね。
月もだんだん昇ってくると山を照らす角度の変化で陰影が深くなったりして、山の表情がどんどん変わってくるので、そういうのも含めて楽しんでもらいたい。

だから山があるっていいんですよ!
*上高地公式 WEB ではトップページに月齢や高度など現在の月の様子を表示しています。
上高地にお越しの際は是非参考にしてみてください。

星空イベントをやる人たちが増えてくれば...

コロナ前は、有料のものやボランティアも含めて星空イベントは年間200回以上やっていました。でも我々はイベント自体を独占してやりたいわけではなくて「星を見ることがイベント化されることを促して星空ビジネス人口を増やしたい、そういう世の中にしたい」というのがあって、まずは自分達でやろうということなんです。
我々が楽しそうに、しかも収益が上がるような感じでやっていれば、同じようにイベントをやりたいと思う人たちがきっと出てくると思うんですよね。 全国でイベントが盛り上がって、星がちゃんとビジネスになることを示してあげる。そう しないと「星を見せる」が普及していかないですからね。

自分達だけでやるのは限界があるので、上高地がその核になってくれることを僕らは望んでいる。と言うのも、上高地は自然観察の聖地みたいなところがあるので、波及効果を期待しているところもあります。

星座で季節を感じるなんて、ス・テ・キ

上高地はすごく季節を感じられる場所だと思います。特に秋、9月後半から10月11 月にかけての時期は一気に紅葉(黄葉)が進んで、山から下りてくるのが見られるし、さらに雪が降るとカラマツの黄葉と雪山とのコントラストが見事だし、季節の進み具合を感じることができますよね。

実は星空にも季節感があって、春の大曲線、夏の天の川、秋の四辺形、冬は大三角 やオリオン座なんかが有名ですけれど、山や自然の季節を感じてもらうのと合わせて 星座でも季節の移り変わりを感じてもらって、その対比を楽しんでいただきたい。
星座を見て「ああもう冬だねぇ」「もうすぐ春が来るねぇ」なんて言えるような、そういう人たちが増えてくるといいなぁと思います。それも星を見る楽しみの一つなんじゃないでしょうか。

(取材/2022.9.15 上高地ルミエスタホテル リバーテラス香風音カフーネにて)

(こぼれ話)

星は夜の間でもどんどん動いていくし、季節の移り変わりでも「宙(そら)の地図」が変わっていくので、だから覚えにくいんですよ。
でも毎日見ていると、たとえその星の名前を知らなくてもだんだん星のカタチが分かってくるんですよね、毎日毎日見ているうちにですよ。

毎日例えば月を見る習慣をつけると、月が昇ってくる時間もわかるし、逆に夕方沈んでいく月齢1,2歳くらいの月に 「地球照」 といって地球に当たった太陽の光が反射して当たると、暗く欠けた部分が薄っすらと見える。それも綺麗ですよ。

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