潜在需要があるところに、こういったものですよねって具体化させるのが僕の仕事。
半歩先の道具を作っていくイメージですね。
小杉 敬(こすぎ けい)さん
株式会社ゼインアーツ代表取締役社長。長野県松本市在住。キャンプギアクリエイターとして数々のプロダクツを設計開発。手掛けたテントは発売と同時に売り切れるほどの超人気商品で、いま最も手に入りにくいブランドである。
SCENE 1
そこからまた街中のほうに移り住んで、山とは遠縁になっていくのだが…
そこから様々なものづくりに携わり、スキルを磨いた小杉は2018年松本で起業。株式会社ゼインアーツを設立する。
「松本という場所は、良いものを作り出すために必要な環境が整っている場所だと思います。製品テストしたり撮影したり、アウトドアフィールドが身近にあるという事は、仕事の効率を高められるのでここにいる必要性は高い。 これが都内だとまたこっちに来なきゃいけないので時間のロスがあるし、日本海側だと天候があまり良くないのでフィールドテストする機会も失われる。晴天率が高くてアウトドアフィールドが身近にある松本は、僕らの商売にとっては非常に効率が上がります。 あとは使うシーンをイメージしながらいろいろできるし、キャンプ場も近い。長野県には本当に良いキャンプ場がたくさんあるので、実際そこにテントを立ててみてロケーションにマッチするギアになっているかどうかの確認ができます。」
「だとしたらそこで使う道具にも美しさっていうものがなきゃいけないんじゃないかと思う。やっぱり自然の中にポンと置く道具なので、自分が見ている景観の中に機能の塊があったら興ざめしちゃいますよね。そうじゃなくて、それも一緒にピクチャーのなかで映えるべきものだと思いますよね。 自然界の美しさと人間が作る美しさとは違うんだけど、人間の視点から見て美しいかどうかを判断しているわけで、そこを追求していくべきなんじゃないかなと思います。」
いろんな人にいいね!って言っていただきたいので、あの色はめちゃくちゃ吟味していて、あれよりちょっと濃いめになると男性が喜ぶんですよ、ミリタリーっぽくて。でも女性は引いていくんですよね。逆にあれより薄くなっていくと女性は喜ぶんですよ。でも今度は男性が引いていく。だから女性も男性も老若男女みんながいいねって言う絶妙な色を選びました。」
〈ロガ〉は露岩から 〈ゲウ〉は夏雨から 〈ギギ〉は巍々から
〈オキトマ〉は谷川岳のツーピーク・オキノ耳トマノ耳から
〈ロロ〉は浪路から *雲海に浮かぶ荒船山の姿を見て
〈ゼクー〉は???? *この先にその答えが…
人間の生活に必要な面積はせいぜい座って半畳分、寝ても一畳分の大きさがあれば足りる。 つまり「自分の身の丈を知り、必要以上の豊かさを求めるべきではない」という教え。
「僕はその精神性がすごく好きで、僕自身もものづくりも経営もそうなんですけど、謙虚でいたい。座=ZA 寝=NE ZANE でゼインアーツという社名にしたんです。」
自らデザインした会社のロゴ Zは座っている人、Nは寝ている人を表す
「ゼクーはおそらく自社のフラッグシップモデルになるだろうと思ったので、仏教の教理『色即是空』から付けたネーミングで、-有って無いもの- みたいな意味なんですけど。ものづくりをする上では『色即是空』という言葉はマッチしてないのかもしれないけど、そう名付けたかったんですよね。」
「結局のところ、ものを生み出していくっていうのは欲求の行為であるわけで、そこは常に自分を見つめながらやっていく。
社名のゼインアーツもそうだし、ゼクーという商品も一番最初に生み出したものなので、これから作っていくモデルに対してもそういう気持ちでありたいなと思うし、僕が作っているものは『有るけど無いもの』みたいな、そこは禅問答のように迷って迷ってやっていきたいなという感じです。僕にとっての戒めですね。
それと、まずは事業を立ち上げての一発目のプロダクトだったので、これからおそらく永続していくだろう会社の、未来の社員に向けたメッセージでもあります。」
般若心経に出てくる言葉。
《この世界の形あるものはすべて因縁によって生み出されたものであり、実体と呼ばれるものがない。すべてが因縁で生じているから、すべてのものは存在する》という意味。
*因縁とは…
仏教用語。物事はすべて、その起源すなわち直接的な力 【因】 と、それを助ける作用すなわち間接的な条件 【縁】 とによって定められている。仏教ではすべての物事生滅はこの二つの働きによって起こると説く。
アウトドアが大好きだから、ものづくりしているだけで幸せ。個人的欲求はそこで解消されている。
ただ総合メーカーとしてラインナップを揃えたいとかそういう事は思ってなくて、自分の身の丈に合ったものづくりの中でこれが無いから作るっていうんじゃなくて、自分が作っていいもの、自分の知識やスキルがあるものに関しては作っていきます。」
「そのなかでも山岳テントは当初から作りたいと思っていて。山岳領域の場合は機能と美しさの面では、バランス良くっていうよりもしっかりした機能性が求められるし、持ち運びには小型軽量化とか設営のしやすさ、過ごす時のサイジングとかいろんな制約がある中で、形が自ずと決まってくるんですね。だからあまり奇をてらったデザインにはならなくてスタンダードなフォルムにはなると思うんですけど…。クロスフレーム構造はシンプルですし、それを超えるものはないと思います。
ただジュラルミンがなかなか入手しにくいんですよね、今。コロナの関係もあって。フレームの素材なんですけど、世界的なアウトドアブームのなかで取り合いで品薄になっていて…。それも来年くらいには解消されそうなんですね。そうなったら着手しようかなと…。でもあまり期待しないでください(笑)」