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上高地を楽しむ

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なんと美しい上高地!その理由(わけ)とは…

縁の下の力持ち ~上高地を美しくする会~

なんと美しい上高地!その理由(わけ)とは…のイメージ

この美しい自然を子々孫々まで残しましょう!

残雪の穂高に響くアルプホルンが新しいシーズンの幕開けを告げ、ニリンソウが群生する頃、上高地は清々しい新緑の季節。清冽な梓の流れに架かる河童橋周辺や小梨平あたりでは白く清楚にミヤマザクラやコナシの花が咲き、続いてレンゲツツジやベニバナイチヤクソウ、カラマツソウ、イチョウバイカモなど各所で初夏を彩る花々が訪れる皆様をお迎えします。本格的な夏山シーズンを前に緑はますますその色を濃くし、やがて山肌の木々が徐々に色づき始める。カラマツの黄葉や穂高連峰の初冠雪など季節の移ろいとともに上高地は多彩な表情を見せてくれます。

静寂の大正池に映り込む穂高連峰・焼岳、その壮大な穂高の雄姿を望む河童橋、少し足を延ばせば神秘の明神池や明神岳、そしてのどかな徳沢・横尾。大自然が織りなす造形美は訪れる人々の心に印象深く刻み込まれます。

「上高地を楽しむ」という内容からはちょっと外れるかもしれませんが、上高地を楽しむ上で皆様に是非知っておいてほしいことをお伝えしようと思います。

この上高地の美しさ。 風景だけではないことにお気づきでしょうか?

シーズン中(4月中旬~11月中旬)に約120万人もの人々が訪れるにもかかわらず、上高地内の代表的な撮影ポイントや施設周辺、遊歩道にはほとんどゴミが落ちていません。このゴミのない景観が全体として上高地の〝美しさ〟に寄与しているのです。
上高地は中部山岳国立公園に指定されていて、環境保全や美化の面で先駆的・先進的な活動をしている地域です。上高地の旅館・山小屋・交通業者・関係官庁などが会員となって、昭和38年(1963)には「上高地を美しくする会」が設立されました。折しも日本全体は経済成長の最中で、山への関心が高まるとともに国立公園内でもゴミ問題が深刻化していた頃です。

当初はゴミ箱の設置でゴミの投げ捨てと散乱を防ぐことが活動の中心でしたが、昭和48年(1973)頃からゴミの持ち帰り運動を始めゴミ箱を撤去しました。その後も定期的に、上高地内の遊歩道はじめ藪や川の中など見えるところ見えないところの一斉清掃を実施してきました。
こうした「上高地を美しくする会」の継続的な活動が功を奏し、昭和50年代半ばにはゴミの量が減少傾向になり昭和60年代になって現在の状況に近いところまで改善されたということです。

心理としてゴミのない綺麗なところにはゴミを捨てにくいですよね。上高地の美しさが保たれているのは、訪れる方々のマナー向上によるところもありますが、一方でこうした影の人々の地道な活動によるところが大きいとも言えます。

不注意からゴミになることも…

(一財)自然公園財団上高地支部の所長で「上高地を美しくする会」事務局長の加藤銀次郎さんにお話を伺いました。

「今では想像もできませんが、発足当時は上高地に限らず日本全体の観光地でゴミが散乱していたようです。上高地は国や自治体の協力を得ながら全国に先駆けて清掃ボランティア活動を行ってきた地域で、われわれも上高地の美化保全活動を日々行っています。」

先日も「上高地を美しくする会」会員約60名が参加し、河童橋より右岸左岸に分かれて園内のゴミ拾いが行われました。
「さすがに空き缶やペットボトルが落ちていることはほとんどありませんが、笹薮や護岸の蛇籠(じゃかご)の中には飴の包み紙とかレシートのような小さな紙くずはありましたね。故意に捨てたものではなく、知らずにポケットから落ちて風に飛ばされたような感じですかね…。」
「ゴミというよりは、カメラレンズのキャップとか髪留めとか小さな落とし物も中にはあります。」

毎年5月下旬から10月下旬までの隔週水曜日、定期的に活動を行っている「上高地を美しくする会」ですが、最近はゴミ拾いなどの清掃活動にとどまらず、歩道の整備・ひこばえ(樹木根元の枝)刈り・外来植物除去・野生動物対策や木道の落ち葉掃きなど多岐にわたっています。

〝美の番人〟として地道に活動を続ける「上高地を美しくする会」。上高地を訪れてくださる一人ひとりの高い意識とともに、この貴重な自然環境をこれからも守り継承していくことでしょう。

(2019年7月6日掲載)
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