山間地を彩る豊かな植生の植物たち|上高地の花々
標高1,500mの上高地では、山地帯と亜高山帯それぞれに咲く花々を見ることができます。5月の中旬頃になると、上高地に春の訪れを告げるニリンソウが咲き始めます。特に明神から徳沢あたりの群生が見事で、ハルニレの木元には可憐な白い花がいたるところに咲き誇ります。群生の中には、まれに緑色のニリンソウが…。見つけられたら幸運が訪れるかもしれません!
この頃咲くエゾムラサキも上高地の代表的な花です。エンレイソウ・サンカヨウ・ヤマシャクヤク・ラショウモンカズラなどが続き、ベニバナイチヤクソウ・ゴゼンタチバナ・マイズルソウなどが咲く頃、上高地は初夏を迎えています。田代湿原ではレンゲツツジのオレンジ色が緑に映えます。
清流に咲くバイカモの花、クルマユリ・クガイソウ・トモエソウ・マルバダケブキ・ハンゴンソウ・ヤチトリカブトなどの花々が咲き、8月を過ぎると上高地は次第に秋に向かっていきます。
たくさんの種類の花が咲き誇る上高地。機会があれば季節ごとに訪れて、その時期その時期の花々を楽しんでみてはいかがでしょうか。
- (白色系の花)
- フッキソウ・ニリンソウ・サンカヨウ・ゴゼンタチバナ・マイヅルソウ・ギンリョウソウ・センジュガンピ・イチョウバイカモ・サラシナショウマなど
- (赤色系の花)
- イワカガミ・ベニバナイチヤクソウ・レンゲツツジ・ショウキラン・ヤマホタルブクロ・ノアザミ・ヨツバヒヨドリなど
- (青・紫色系の花)
- タチツボスミレ・エゾムラサキ・ラショウモンカズラ・ソバナ・クガイソウ・ヤチトリカブト・ノコンギクなど
- (黄色系の花)
- オオバキスミレ・キジムシロ・ニッコウキスゲ・マルバダケブキ・トモエソウ・ハンゴンソウ・アキノキリンソウなど
- 見頃時期や花の色・大きさ等については、おおよその目安です。気候や生育条件などにより個体差があり変動します。
(解説文協力/有限会社山岳観光社)
フッキソウ(富貴草/ツゲ科)
見頃時期:5月上旬~6月上旬
葉は厚く、茎の先に長さ5cmほどの穂状の白い花が咲きます。小梨平の清水川沿いや、ウェストン園地上手の梓川と遊歩道の間の林などに密生しています。一年中緑の葉を広げている状態を、繁栄になぞらえた縁起の良い名前です。
ニリンソウ(二輪草/キンボウゲ科)
見頃時期:5月中旬〜6月中旬
5~6月に咲く2cm程の白い花。花びらのように見えるのは萼(がく)片で、緑色に先祖帰りしたものや、淡いピンク色のものなどもあります。上高地の春を代表する植物の一つで、明神~徳沢あたりの林床に白い絨毯を敷いたような大群落は見事です。
シロバナエンレイソウ(白花延齢草/ユリ科)
見頃時期:5月中旬~6月上旬
茎の先に大きな3枚の葉を広げ、中央に花びら(内花被片)3枚の白い花を一つ付けます。6月頃、新緑の明るい林の中に咲いています。別名ミヤマエンレイソウ。花びらが地味な紅紫色のものはエンレイソウで、並んで咲いていることもあります。
ツバメオモト(燕万年青/ユリ科)
見頃時期:5月中旬~6月上旬
針葉樹林の林床に生えています。葉は根元から数枚出ていて、柔らかく艶があります。花弁は6枚で茎の先に数個つき、径2cmくらいのよく開いたユリ形です。葉と花のバランスが良い植物です。上高地では斜面のコメツガの林下によく見られます。
カミコウチテンナンショウ(上高地天南星/サトイモ科)
見頃時期:5月中旬〜6月下旬
テンナンショウの一種で、長野県・岐阜県の北アルプスに分布する固有の植物です。葉は一枚、濃い紫色の仏炎苞が葉よりも低い位置についています。湿り気のある林や登山道沿いに生えています。秋になると鮮やかな赤い実を付けます。
サンカヨウ(山荷葉/メギ科)
見頃時期:5月下旬〜6月中旬
5月下旬~6月頃、林の中に大小2枚の葉を広げ、2cm程の白い花が数個かたまって咲きます。雨や露に濡れると花びらがまるでガラス細工のように透明になります。荷葉とは蓮の葉のこと。果実は楕円形で、夏に濃い青色に熟します。
エゾムラサキ(蝦夷紫/ムラサキ科)
見頃時期:5月下旬〜7月上旬
青紫色で5~8mmくらいの小さな花が咲きます。ワスレナグサと同じ仲間で、花期が長く5~7月上旬頃まで日当たりのよい林内や林縁などに群生しています。上高地の初夏を飾る代表的な花の一つです。
コミヤマカタバミ(小深山酢漿草/カタバミ科)
見頃時期:5月下旬〜6月上旬
比較的暗い針葉樹林や、小梨平から明神を経由し徳沢に至る遊歩道の山側斜面などに生えています。2cm程の白い花には、昆虫を導くハニーガードと呼ばれる淡い紫色のタテ筋が数本入っています。3枚の葉はハート形で、夜は閉じて垂れ下がります。
イワカガミ(岩鏡/イワウメ科)
見頃時期:5月下旬〜6月中旬
湿り気のある斜面の岩場などに生えています。1~1.5cmくらいのピンクの花が数個かたまって下向きに咲きます。釣鐘型の花弁の先は、細かく切れ込んでいます。花の名の由来は、つやつやと光沢のある葉が鏡のようであることから。
オオタチツボスミレ(大立壺菫/スミレ科)
見頃時期:5月下旬〜6月中旬
日当たりのよい路傍や林縁に多く見られます。葉は浅い切れ込みのある丸いハート形、花は淡い青紫色で、後ろには蜜を溜める袋状の距(きょ)が伸びています。平地でよく見かけるタチツボスミレによく似ていますが、距が白色なのが特徴です。
ラショウモンカズラ(羅生門蔓/シソ科)
見頃時期:6月上旬~6月中旬
やや暗い湿った林内に生育しています。花は紫色で長さ5cm程の筒形、片側に寄って茎の上部に横向きで数個つきます。ちなみに花の名は、平安時代に渡辺綱(わたなべのつな)が京都羅生門で切り落とした鬼の腕に似ていることから付けられました。
ホンシャクナゲ(本石楠花/ツツジ科)
見頃時期:6月上旬~6月中旬
花の径は5cmくらいで紅色の濃いものから白色に近いものまで多様です。遊歩道沿いではあまり見かけませんが、小梨平の山側や、明神の先の徳本峠(とくごうとうげ)分岐地点近くの斜面などに多く見られます。
ヤマシャクヤク(山芍薬/キンポウゲ科)
見頃時期:6月上旬~6月下旬
茎の先に1個だけ白い花を咲かせます。6月頃に見られる花で、湿った林の中にひっそりと咲いています。春に咲く花のなかでは比較的大きく目立ちますが、遊歩道沿いには少ないので、出会った時には感動します。
レンゲツツジ(蓮華躑躅/ツツジ科)
見頃時期:6月中旬~7月上旬
花はオレンジ色で大きく、径5cm以上あります。枝先に数個集まって咲くので、鮮やかな朱が新緑に映えて見事なコントラストです。田代湿原や岳沢湿原で多く見ることができます。茎や葉に毒性があり、葉は秋になると鈍い赤色に色づきます。
ゴゼンタチバナ(御前橘/ミズキ科)
見頃時期:6月中旬~7月上旬
6枚の葉の中央に咲く花は1個のように見えますが、実際は小さな花が20個くらい集まっていて、白い4枚の花弁のように見えるのは総苞片という部分です。4枚葉の株に花はつきません。針葉樹林の木の根元などにかたまって生えています。
ベニバナイチヤクソウ(紅花一薬草/ツツジ科)
見頃時期:6月中旬~7月上旬
まっすぐ伸びた赤みのある茎に、間隔を置きながら10~15個くらいのピンク色の花が咲きます。徳沢の手前、梓川堤防沿いの歩道や焼岳登山道を少し登ったあたりに多く生育しています。カラマツやハンノキなどの林内に群生していることもあります。
ショウキラン(鍾馗蘭/ラン科)
見頃時期:6月下旬〜7月上旬
6~7月にかけて小梨平あたりを注意深く探すと、あまり人目に触れない笹藪の中で、ひっそりと咲いています。ピンク色の3cm程の花で、葉のない菌従属栄養植物です。花の形が魔除けの神・鍾馗(しょうき)様の帽子に似ていることから名づけられました。
ギンリョウソウ(銀竜草/ツツジ科)
見頃時期:6月下旬〜7月上旬
葉はなく、根に共生する菌を通して栄養を吸収する菌従属栄養植物です。全体が銀白色で、花の内側は紫色を帯びています。暗い針葉樹林の林床にも生えていますが、田代池から田代橋に向かう林間コースで割とよく見かけることができます。
キバナノヤマオダマキ(黄花の山苧環/キンポウゲ科)
見頃時期:7月上旬〜7月下旬
普通のヤマオダマキは、花弁がクリーム色で萼片(がくへん)が紫褐色ですが、全体がクリーム色のものがあり、これをキバナヤマオダマキとして区別しています。日当たりのよい林縁や草地に生え、上高地ではキバナのほうが多く見られます。
マルバダケブキ(丸葉岳蕗/キク科)
見頃時期:7月中旬〜8月中旬
7~8月に咲く背の高い派手な黄色の花。田代湿原や川岸など湿り気のある草地に生えています。フキに似た大きな丸い葉が特長で、周辺の舌状花は10個くらいあり、頭花全体の径も8~10cm程の大きさです。上高地に夏の訪れを告げる代表的な花です。
フジアザミ(富士薊/キク科)
見頃時期:7月中旬〜8月中旬
茎の先端につく花は紫色で下向きに咲きます。アザミ類の中で最も大きく、葉も下に集まっているので他と区別できます。名前は富士山麓に多いからですが、上高地にも意外に多く、大正池から下の道沿いに多く見られます。
ヨツバヒヨドリ(四葉鵯/キク科)
見頃時期:7月中旬~8月下旬
茎先に小さい花が密集して咲きます。花の色は淡い赤紫から白に近いものまで様々。林縁や林道の脇に生え、草原ではしばしば群生しています。多くは4枚の葉が輪生してつくのでヨツバの名があります。ヒメアカタテハなどの蝶がよく吸蜜に訪れます。
ヤチトリカブト(谷地鳥兜/キンポウゲ科)
見頃時期:7月下旬~8月中旬
夏を代表する花で、川べりや湿気のある草地などに咲く青紫色の花です。5枚の萼(がく)片が烏帽子のような複雑な形になっていて、草丈は1m前後もあるので良く目立ちます。猛毒(アルカロイド)で有名ですが、触れるだけなら問題ありません。
ジャコウソウ(麝香草/シソ科)
見頃時期:8月上旬~9月上旬
長さ4cmほどの淡紅色の花で、筒の部分が長い唇形をしています。明神方面の梓川左岸沿いの木陰や湿った場所に見られます。名前の由来は、茎や葉に麝香(じゃこう)の香りがあるということですが、実際はそれほどの香りはしません。
ミゾソバ(溝蕎麦/タデ科)
見頃時期:8月上旬~9月下旬
根元が白く先端が薄紅色で、直径5mm前後の小さい花を多数咲かせます。葉の形が牛の額に似ていることから「ウシノヒタイ」との別名があります。上高地では湿地や歩道沿いに多く見られます。3mmほどの実を野鳥がよく食べています。