幻想の旋律奏でるシンフォニア
焼岳・穂高連峰を穏やかな湖面に美しく映し出す晴天の顔
色彩を失った風景の中、立ち枯れの木々の黒い影と藍色の湖面が幻想の旋律を奏でる霧の顔
大正池は清らかな水の底に潜む魔物の姿を隠すようにその色を変えながら今日も山々を讃えている
山々を映し出す穏やかな水鏡
釜トンネルを抜け、生い茂る緑の中を潜り抜けると木々の合間から穂高連峰の一角が顔を覗かせます。雄々しくそびえ立つその岩肌は、春先から初夏にかけては残雪、晩秋には新雪の衣裳を身に纏い、見る者を圧倒します。ほどなくすると悠然と横たわる穂高連峰の全景が目の前に姿を現します。手前には、静寂のなかに穏やかな表情で山々を映し出す水鏡。大きく手を広げ、訪れるすべての人々を迎え入れてくれるような壮大なパノラマビューです。
左手に見える焼岳は大正4年(1915)に噴火。噴出した熔岩や泥流によって梓川が堰き止められて出現したのが大正池です。当時は広大な面積だったことから「梓湖」と言われていたようですが、いつしか「大正池」と呼ばれるようになりました。
大正池の朝と夜、静寂に浸るひととき
大正池といえば、晴れた日の穂高連峰を映し出した風景が印象的ですが、早朝の景色も必見です。特に雨上がりの朝などは靄(もや)が立ちのぼり、水面に浮き上がる立ち枯れの木々と相まって、白くかすんだ青の世界が何とも幻想的です。
穏やかで風のない朝、刻々と変化していく自然の造形美。その様はいつまで見ていても飽きません。
夜の大正池、まさに静寂の時が訪れます。辺りは一面漆黒の闇、周りに光はありませんが、不思議と穂高のシルエットが見えています。
夜空に浮かぶ天の川、一瞬現れては消える流れ星、散りばめられた無数の小さな光。大正池エリアは星空観察に恰好のスポットでもあります。時おり夜行性動物の気配も感じながら…きっと特別な体験ができることでしょう。
100余年の時を刻んで…
焼岳の噴火により一夜にして姿を現した大正池。原生林は水没し、当初は田代橋のあたりまで湖になっていたともいわれています。100年以上経った現在では面積も半分以下にまで小さくなり、立ち枯れの木々もだいぶ減っています。景観が少しずつ変化していくのも時の流れで仕方ないことですが、その時代その時代の風景を楽しむことができます。
一方で、梓川の上流から流れ来る砂礫や、雨が降るたび焼岳の沢から流れ込む土砂が毎年大量に堆積しています。自然のままにしておけば、いずれ大正池は埋まってしまうことが懸念されています。
この素晴らしい景観を守り次世代に継承していくため、シーズンも終わりに近づいた11月、大正池に流れ込む土砂を取り除く浚渫(しゅんせつ)作業が行われています。
Access