静寂と緑が満ちる、上高地の奥座敷
小説「氷壁」の舞台となった徳沢は
かつて牛馬を放った草原
牧歌的な風景に安らぎながら
前穂東壁の荒々しい表情に暫し思いを馳せる
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険しい岩壁を眼前に、
トレッキングを楽しむ
明神から梓川左岸の道を上流にたどること約60分。静かな針葉樹林を抜けると、そこはハルニレやカツラの木々が点在する明るく広々とした草原・徳沢。5月中旬には、上高地に春の訪れを告げるニリンソウの小さな白い花が辺り一面に群生し、エンレイソウやエゾムラサキ、ベニバナイチヤクソウなど多くの草花が咲き乱れ牧歌的な風景が広がります。喧騒を逃れた上高地の奥座敷・徳沢まで、眼前に迫り来る前穂東壁を望みながらの1DAY(ワンデイ)トレッキングを楽しみましょう。
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井上靖の描いた山岳小説『氷壁』
徳沢より望む北アルプス前穂高東壁を舞台に描かれた、井上靖(1907-1991)の長編山岳小説『氷壁』。社会問題にまで発展した「ナイロンザイル事件」を題材に、昭和31年(1956)から翌年まで朝日新聞に連載され、単行本も刊行されました。切れるはずのないナイロンザイルが切れ、登山中に亡くなった友人の死を追う主人公。友情と恋愛との確執、「山」という自然と都会との対照、山を愛するアルピニストの心情が見事に描かれ、今なお読む人々を魅了します。文中に登場する「徳沢小屋」は氷壁の宿・徳澤園のことで、穂高を愛した井上靖氏の常宿でもありました。宿には氏から贈られた直筆原稿が飾られています。
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空と名峰に囲まれた徳沢キャンプ場
昭和初期まで牧場だった徳沢は、今では広々とした緑のキャンプ場となっています。前穂高東壁や奥又白谷を望み、河原へ降りればキャンプ場の背後には蝶ケ岳の姿も望めます。
5月中旬にはニリンソウが群生となって咲き乱れ、ハルニレやカツラの巨木が木陰を作り、夏や秋の最盛期には100張にのぼるテントが色とりどりの花を咲かせます。9月中旬頃から始まる山肌の紅葉、そして10月にはカラマツが眩いばかりの黄金色に染まります。
清々しい空気と爽やかな山あいの風、ゆっくりと流れる時間のなかで体験する非日常は、きっと大切な思い出となって訪れる人々の心に残ることでしょう。
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